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2022年07月29日

物流専門誌に掲載された寄稿文を紹介します

物流情報の専門誌『カーゴニュース』紙の「転換期のトラック輸送」と題した特別編集企画号に以下の寄稿文が本号を締める形で掲載されました。画面では記事の文字が小さいので以下に転記しておきます。

「トラック貨物輸送事業者は、自ら活路を拓け」        辻 事業サポート事務所  代表 辻 卓史

全日本トラック協会の活動のスローガンは「トラックはくらしと経済を支えるライフライン」だ。まさにその通り、トラック輸送業界は国内貨物輸送の9割以上を担っている。また鉄道も航空も海運も駅・空港・港湾への搬入・搬出にはトラック輸送が不可欠だ。従って、トラック輸送は国内・海外向け貨物輸送のほぼ100%に関わっていると言っても過言ではない。そしてトラックドライバーはエッセンシャルワーカーと称されるように、1日でも姿を消すとたちまちサプライチェーンは寸断され、産業界も人々の生活も成り立たない。文字通り、トラック輸送は電気、ガス、水道と並び、人々の命を支えるインフラストラクチャー(基礎的社会基盤)であることは疑う余地がない。

規制緩和が招いた脆弱な事業体質
それではなぜトラック輸送業界は他の業界と比べ、厳しい事業経営を強いられているのか。その背景にあるのは、今から約30年前の平成の初頭、当時は猫も杓子も規制緩和が要求される中で、トラック輸送業界についても参入規制を緩める法律が施行されたことだ。5台に設定された最低保有台数の良し悪しは別にして、規制緩和により多様性に富むサービスの提供といった「光の部分」も確かにあった。ところがその一方で、トラック輸送のような成熟産業においては、参入が容易になったことで事業者数が瞬く間に5割以上増え、厳しい過当競争に陥り、運賃の安値受注と過剰サービス(無償の待機・荷役作業等)が横行し、結果としてドライバーに長時間労働と世間水準を下回る低賃金をもたらした。そして事業者にも今日の脆弱な企業体質を招いたことは否めないのではないか。
一方、この30年の間に国内貨物量は約3割減少している。背景としてグローバル化に伴う産業構造の変化や、少子高齢化、人口減少が挙げられる。そして物流形態も「重厚長大」から、「軽薄短小」「多頻度・多品種・少量・短納期」へと変わり、一段と労働集約型となった。また、情報化(IT・DX化)の進展に伴いEコマースが増加(物販系は7年で2倍)し、宅配便の個数は同期間に約10億個から5倍の50億個に近づき、更に増え続けると予想される。そして今後も、白ナンバーから緑ナンバーへの転換や、ラストワンマイルでの黒ナンバーの増加は見込まれるが、一般貨物運送については、残念ながら全事業者が腹一杯になるほど貨物量の増加は期待できないと考えられる。このようにトラック輸送業界をめぐる客観情勢は大きく変化している。

交渉力高める「構造改革」が是非とも必要
トラック輸送業界は今日に至るまで、事業の継続、並びに「安全・安心・安定」した輸送を全うするため、「適正運賃の収受」が不可欠であると訴えてきた。それがなぜ実現できないのか。それは自由主義・市場経済においては、公定料金以外は価格を決定するのは「需給」だからだ。現在、トラック輸送業界は明らかに供給過剰状態にある。しかも全事業者(2021年3月末現在、6・3万者弱)の99%を中小事業者が占め、価格交渉等、労働条件改善への交渉力が極めて弱く、荷主にとって都合の良い「買い手市場」、極論すれば「隷属状態」だ。これでは燃料や人件費、車両費等、不可避的なコストの上昇さえ、運賃に転嫁することは容易ではない。これは卸売物価(企業物価)を消費者物価にスムーズに転嫁できない、日本固有の産業構造を象徴しているともいえる。労働条件改善への交渉力を高める「構造改革」が是非とも必要だ。
現在、トラック輸送業界は数々の問題を抱えている、それを分類すると予算・税制や法律、そして高騰する燃料、高速道路の料金の引き下げや道路整備、外国人労働者の雇用、それに環境や安全に対する組織的な活動のための交付金・補助金、そして最近では標準的運賃といった、業界全体が共有するマクロ的な課題がある。これらについては組織立った活動が不可欠であり、全日本トラック協会を窓口として、政府や監督官庁、並びに関連諸団体にご支援をお願いすることになる。その一方で、最終的に荷主と交渉し事業の継続・発展を図るのはあくまで個々の事業者の責任だ。そこで本稿では事業者の今後の経営判断に関し私見を述べたい。

自らの信念・戦略に基づき経営者が判断を
トラック輸送事業者が経営者として、自らの信念・戦略に基づき判断すべき課題は多数ある。例えば①経営者の高齢化が進むが、中小企業の約6割が後継者不在という事業承継問題、②企業体質・体力をどう高めるか、③ドライバーやスタッフの確保、④「2024年問題」への対応、⑤アセット物流による付加価値向上のための設備投資資金の調達、⑥今後の物流に不可欠なDX化投資への資金と人材の確保、⑦事業者によってはコロナ禍の無利子・無担保融資の返済、等々。これらの問題に適切に対応できなければ市場から退場を迫られる。「進化論」で有名なダーウインは、「生き残るのは、最も強い種ではない。変化に最も敏感に反応できる種である」という格言を残している。
なお、④「2024年問題」は、「労働時間の短縮は結構だが収入が減るのは困る」という、ドライバーの本音にどう向き合うかが焦点だ。事業者としては、「仕事のやり方を根本的に見直し、生産性を上げ時間短縮を図る」、「ドライバーの数を増やす」、「ドライバーの賃金(時給)を上げ、それに見合う運賃を収受」、「労働時間規制に見合う水準まで仕事量を減らす」――等が考えられる。どれも簡単ではない。ところがこの問題を解決できないと、ドライバー、特に中高年は、解禁・緩和に向かいつつある副業・兼業、あるいはギグワーカー、または労働時間規制を守らないブラック企業へと流れ、不足がさらに厳しさを増すことが懸念される。果たしてドライバーの総労働時間の短縮に結び付くだろうか。

50台以上を目標に再編・統合をめざせ
さて、全日本トラック協会の経営分析によると、トラック輸送事業の損益分岐規模は50台となっている。ところが現状は10台以下の事業者が全体の55%、そして50台以下に枠を拡げると約93%を占める。こういった事業者が単独で50台以上を目指すことは簡単ではないだろう。また、それぞれの事業者が家業として、オーナーの立場を守っていきたいという気持ちも分かる。従って、その余地を残しながら保有台数10台、20台、あるいは50台以下の事業者が50台以上を目標に再編・統合し、「協同組合」から一歩進めた「持ち株会社」のような形態を目指してはどうだろうか。
50台以上に再編・統合し事業規模を拡大することにより、①共同の事務センターを設立し事務処理を一元化、省力化と効率化を図り、情報化・DX化とそれに必要な人材を確保する、②保有トラックをプールし共有化することにより、様々な要因による荷動きの変動リスクを最小限化し、稼働率・積載率の向上により経営の安定を図る、③ドライバーを共同管理し、ドライバー不足と労働時間規制に対応する、④営業部門を統合することにより集荷力と、規模の拡大を図り対荷主交渉力を強化する、⑤安全教育・品質管理の強化、といった効果が期待できるのではないか。
なお、金融や鉄鋼、石油、海運といった他の業界では、厳しい国際競争の中、生き残りを賭け構造改革(再編・淘汰)を進めた結果、大きな経済効果(収益力)が出ている。ところがトラック運送業界は純国内産業であることから外圧がなく、旧態依然としたままだ。私の提案は「荒唐無稽」と一笑に付されるかも知れないが、このまま手をこまねいていては事業者は確実に「ゆでガエル」になる。追い込まれてから今後について考えるのではなく、多少なりともゆとりがあるうちに、「自ら道を切り拓く」という気概というか、「企業家魂」(アニマルスピリット)を発揮すべきだ。

結びに、民間企業間の再編・統合は、あくまで事業者ベースの経営判断であり、政府やトラック協会に頼る筋合いのものではない。ただ、経済産業省は中小企業の後継者難や事業承継問題を踏まえ、持ち株会社化に向けた支援の検討に入ると報じられていることから、構造改善事業として採り上げてもらう余地はあるだろう。一方、M&A(合併・買収)を仲介する信頼性のある民間企業も次々と現れている。こういった機運も味方に、是非、「構造改革」に取り組み荷主に対する交渉力を高め、「適正運賃の収受」を実現すべきではないだろうか。

【プロフィール】
辻 卓史(つじ・たかし)一橋大卒、宇部興産を経て1983年鴻池運輸入社。社長、会長を歴任、2021年6月退任まで大阪府トラック協会会長、全日本トラック協会副会長他、物流業界団体の要職やブータン王国名誉領事を務めた。
以上 2022年7月28日『カーゴニュース』掲載