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2021年10月22日

ブータン王国名誉領事を務めて学んだこと(1)(17)

私は2010年4月にブータン王国在大阪・名誉領事を拝命し、本年6月末に前職(鴻池運輸・取締役会長)を退任、退社すると同時に、同職務からも退きました。
在任中、ブータン王国の私の名誉領事在職が話題になると、ほとんどの方から、そもそも「どういうことで引き受けたのか」と尋ねられました。
実はそのきっかけは2006年10月に遡ります。その時も今も、私にとって30年以上にわたる韓国の友人が、同国におけるブータン王国の名誉総総領を務めていますが、その関係を通じ私に、当時空席であった同王国在大阪名誉領事への就任について打診があったのです。私は以前から民間外交については関心がありましたので、ともかく「百聞は一見に如かず」ということで、韓国の友人夫妻と家内とともに同王国を訪れました。そしていろいろな方々とお会いする中で、お引き受けしようという気持ちになったのです。
ところがこの話が持ち込まれてから、私が実際に同王国の名誉領事に就任したのは、その3年半後の2010年4月でした(それ以来、退任するまで11年間に7回訪問)。
後で分かったことですが、この間、同王国では専制君主制から立憲議会制民主主義国への移行が進められていたのです。その民主化へのプロセスとして、2007年12月に初めての上院議員選挙、続いて2008年3月には下院議員選挙が実施され、2008年3月に内閣が発足し、そして同年7月に憲法が制定されたのです。また、王室では、ワンチュク第4代国王からジグメ・ケサル・ナムギャル・ワンチュク現国王(第5代国王)へと王位継承が行われ、2008年11月6日に戴冠式が行われました。
このように同国では当時、国体の転換と、それに伴う国家的行事が相次ぎ、政府は名誉領事の選任どころではなかったというのが真相でした。
因みに前国王は全国民から敬愛され名君の誉れ高く、国家の基本政策をGNP(国民総生産)という物質的な面より、GNH(Gross National Happiness-国民総幸福量)という、精神的な豊かさの追求に重点を置きました。このGNHという国家理念は、「経済成長と開発」「文化遺産の保護と伝統文化の継承・振興」「豊かな自然環境の保全と持続可能な利用」「よき統治」を4本柱としており、憲法の中でも国是として明記されています。
ブータンという国名は、もともとインド人がチベットを指して呼んでいたことが由来だそうですが、後に欧米人の間でブータンという特定の国を指す言葉として定着しました。ブータン人自身の言葉による国名は「ドゥク・ユル」(Druk Yul-「雷龍の国」)です。国旗にもオレンジ色と黄色の下地に宝石を握る龍が描かれています。因みに同王国ではオレンジ色は、宗教の営みと仏教の力を象徴し、国王だけに許された色で、権威を象徴します。国営航空会社の名前も「Druk Air」となっています。
同王国は仏教(チベット仏教の支派・ドゥク派-大乗仏教)を国教と制定しており、国民の信仰心は極めて強く、至る所にダルシン(経文旗)が風にはためき、静寂そのものの緑豊かな自然にとけ込み、初めて訪れた時の印象は、それまで訪問した国とは全く異質の「何とも言えない雰囲気」で、「人間の幸せとは何か」を感じさせられました。 以下、次号。

 

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