あるセミナーで講演をするに当たり、最近、日本が国際的にどう評価(ランキング)されているか、公的データを整理してみました。そうすると我が国の国際競争力と国際的地位の低下を示す指標が、あまりにも多いのに驚きました。そのいくつかを挙げてみます。
■日本の名目GDP(国民総生産)は2010年に中国に抜かれ、現在は世界3位(中国の約1/3の規模)。世界シェアは、1995年の17.6%をピークに下がり続け、2017年以降は6%を切っています。2030年前後にはインドに抜かれると予測されています。
一人当たりGDPも順位を下げ続け、昨年は世界で24位まで後退しています。
■IMD(国際経営開発研究所)によると、我が国の国際競争力のランキング(総合順位)は64カ国・地域の中で31位です。香港7位、台湾8位、中国16位、韓国23位といった国々・地域の後塵を拝しています。
■IMDによると我が国のDX(デジタル・トランスフォーメーション)のレベルは、2021年時点で世界28位です。新型コロナウイルス禍は行政のデジタル化の遅れを浮き彫りにしましたが、民間部門もDXに取り組む日本企業の割合は13%に止まり、米国の60%に大きく遅れています。
■男女平等ランキング(ジェンダーギャップ)は国連加盟156カ国中120位です。政界、経済界を問わず日本は世界的に非常に低い評価です。10年前に北欧諸国(スウェーデン、フィンランド、ドイツ)を訪問し、我が国の多様性への遅れを痛感しました。
■文部科学技術省によると、多数の研究チームが引用する「質の高い論文」の数で、昨年は中国が米国を抜き1位となりました。日本は9位で、10年前の5位から後退が続いています。また、世界における特許出願数で我が国は中国、米国に続く3位ですが、出願件数の減少が続いています。
■スイスのサンガレン大学などが58カ国の約26.7万人の大学生を対象に実施した起業意識の調査レポート「Guess2021」によると、日本の学生の起業意識は最下位です。背景として「リスクを取りたがらず」、「失敗に厳しい国民性」が指摘されます。
■英国のシンクタンクなどによると国際金融都市としてのランキンク゛は、1位・ニューヨーク、2位・ロンドン、3位・上海、4位・東京、大阪は36位です。
■昨年における日本人の英語能力は非英語圏100カ国中、55位です。
■小中学生の国際学力テストで学習意欲を問う調査で国際水準を下回る傾向
1960年代半ば、日本人は「エコノミック・アニマル」と揶揄されるほど、ビジネスに貪欲で、チャレンジ精神に満ちていました。ところが今の我が国の現状は残念ながら、牙を抜かれたような状態となり、世界でのランキングはどんどん低下・後退し、存在感は薄れつつあります。我が国の経済や技術革新、制度改革が停滞している間に、新興国をはじめ他国の経済・社会の発展のスピードが上回った結果といえます。
それではこれから我が国の復権をどう図るか。奇手・奇策、妙手はありません。
先ず第一に必要なことは、現在の我が国の客観的に見た厳しい評価を直視することです。そして背景にある要因を分析し、「意識改革」を図ることです。
我が国にはこれといった天然資源はなく、原材料、エネルギー源のほとんどは輸入です。食料もカロリーベースで約40%を輸入に依存しています。これはいわば宿命です。従って「無から有(付加価値)」を生み出さす方策を講じないと経済は発展せず、今の生活水準を維持できません。
その柱となるのは「Soft力」(知識・技術集約)、そしてそれを支えるのは「人材」です。
中国の古典・管子に「50年、100年先を考えるなら人を育てよ」とあります。人(人材)を育てるには根気(時間)と手間(費用)が必要であり、政府・民間挙げて直ちに取り掛かる必要に迫られています。