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2022年04月22日

米国でのくらしとビジネスを振り返って(9)(41)

米国ロサンゼルス市での冷凍冷蔵倉庫事業プロジェクトへの投資金額は約50億円でした。今から35年前、当時は年間売上高が約900億円の企業にとっては決して小さな金額ではなく、しかも海外案件ということで、当然のことながら賛否両論がありました。最終的に投資を決断した背景には下記のような要因がありました。
〇施設の立地が米国へのゲートウェイであるロサンゼルス港、並びにロングビーチ港と10Km程度と至近距離にあり、高速道路にも近接している等、物流にとって極めて利便性に優れていること。
〇全米各地とつながるバーリントンノーザン鉄道(BNSF)に隣接しており、施設内に支線を引き込めば鉄道輸送をフル活用出来ること。それにより国内産品を輸出向けに、そして輸入品を国内向けにトランスロード (積み替え)機能を提供できること。
〇事前調査で、進出予定地では冷凍冷蔵倉庫が不足しており、しかも頭に描いていたブルーオーシャン戦略(競合相手が少ない市場を選択)と合致したこと。
〇合弁相手がシアトルで同事業の実績を持っており、信頼できる人物であること。
〇進出を検討中に当時のカリフォルニア州 ピート・ウイルソン知事や、ロサンゼルス市 トム・ブラッドリー市長からの熱心な誘致と、支援の申し出があったこと。

なお、米国は環境問題に非常に厳しく、土地を購入後、着工許可取得には、有害物質規制法(TSCA)をクリアする必要があり、許可取得に約2年を要しました。
ところが、認可にどれくらい時間を要するか分からぬ状態であった時に、敷地内に汚染土壌を不法投棄される事件が発生したのです。本当にその時は「これから先、一体どうなるのか」という不安で、夜中に何度も目が覚めました。その後、犯人は逮捕されたのですが賠償能力はありません。どうしたものか思案していたところ「そういう場合は土壌の発生源を訴えろ」というアドバイスを受け、相手に通告したところ支払いに応じてくれました。やはり米国は訴訟社会だということを痛感しました。ただ、不法投棄に伴う土壌改良に1年を要しました。

その後ようやく着工となり、完成したのは1994年末でした。収容能力は26000パレット、ローディングドックは約300m、トラックゲート56という大型設備ですが、開業式では保管貨物ゼロ。同行していた業界紙記者から「辻さん、こんな大きいものを造ってどうするの」といわれ、「アメリカではこれくらいでないと通用せんのや」と強がったことを記憶しています。しかし業務開始後は誤出荷・誤請求でクレーム続出。毎月、毎月赤字の山。この時はもがき苦しみ、針のムシロに座らされているようでした。

一方、私は提供できる機能が優れていることを確信していましたので、オペレーション・ソフト、つまり業務知識・経験さえ習熟すれば事業として、必ず軌道に乗ると考えていました。そこで私は現地の最高責任者に経験・知識豊かな現地人を起用することにしました。そして縁を生かし適任者を招聘した結果、経営は軌道に乗り、今では冷凍冷蔵倉庫は3カ所に拡大しています。「難産の子は育つ」と言いますが、今はそれを実感し、懐かしい思い出で一杯です。そして、うれしいことに2018年5月、ロサンゼルス地区商工会議所から、「外国からの投資貢献企業」として表彰の栄に浴しました。

海外事業で大事なことは現地化をどう進め、それに必要な「適材をどう見つけるか」だと思います。そのためにはトップ自ら現地での人脈を拡げ、アンテナを高くしておくことと、何よりも異国の人材を見抜く「眼力」を養っておく必要性を痛感しました。
なお、このシリーズは次回を最終回とし、米国でのビジネスを総括したいと思います。

追記: 最近よく、M&A(合併・買収)とか、TOB(株式公開買い付け)、MBO(経営陣による自社買収)、Activist(物言う株主)といった言葉を耳にします。その上、企業経営とは無関係のようなPoison Pill(毒薬条項)とか、White Knight(白馬の騎士―助っ人)や 、Greenmailer(善人を装う脅迫者)といった、適訳が難しい用語もあります。
ここではこれら言葉の解説はしませんが、私が40年前、ニューヨークで勤務していたころ、「Wall Street Journal紙」(日本経済新聞のような存在)では、日常的に目にしました。その頃から既に、米国の企業はダイナミックな変革を進めていたと言えます。一方、日本企業はしがらみに捕らわれ断捨離が不得手です。その日本でも最近ようやく、経営戦略として企業が売買される時代に入ったようです。人事体系も従来の終身雇用的なメンバーシップ型からJOB型へ、そして転職も増加傾向です。個人も時代の変化を的確に捉え、どう力を蓄え身を処していくか考えねばなりません。

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