今開催中のWBC(World Baseball Classic)で久しぶりに日本国中が沸き上がっています。「侍ジャパン」は順調に勝ち進み、フロリダで行われる準決勝への進出が決まりました。是非とも優勝を目指して頑張ったほしいものです。先週末は仲間と兵庫県の中東部にある丹波篠山市を訪れました。目的は「ぼたん鍋」(猪肉を用いた鍋料理)。そして篠山城跡や酒蔵巡り。同市はJR大阪駅から特急で1時間弱の至近距離です。大いに食べ、そして地酒を飲み大変楽しい週末でした。
■■今週は久しぶりに東京に出張したため、最近の世間の動静についてじっくりと考える時間がありませんでした。そこで、今回は繋ぎのような形として、今から16年前の2007年1~12月に、月刊誌「たる」(TARU)の「百黙一言」というコラムに寄稿した拙文(字数制限600字)を取り上げることにしました。この月刊誌は7~8万部の発行部数(当時)で「酒とグルメ」を紹介する専門誌です。因みに「百黙一言」とは「寡黙な人の重みのある一言」という意味だそうです。私は寡黙でもないし、重みのある言葉でもありませんが、当時、鴻池運輸㈱取締役会長として寄稿して以来、16年という歳月の間に社会では大きく変わった部分と、旧態依然としたまま進化していない側面があり、比較するのも面白いのではないかと考えた次第です。
■平成19年8月 (2007年)寄稿:「トラック輸送について」
我が国の平成16年度(2004年度)に於ける自動車保有台数(乗用、二輪車等を含む)は約7,830万台。その中でトラックは約890万台で、国内貨物輸送量の90%強(重量ベース)を担っています。そして、トラックによる輸送量全体の56%を総台数の6台に1台を占める営業用(緑ナンバ-)が行っており、輸送効率は自家用(白ナンバ-)に比べ28倍に達しています。営業用トラックの事業者数は規制緩和により毎年増え続け、平成16年度は約6万1千社余り。その99%が中小・零細企業で過当競争体質が強く、そのため安全・環境対策、原燃料費の上昇等々、数々のコスト・アップ要因が多数ありながら運賃に転嫁出来ていません。その結果、社会保険未加入や、過積載、長時間労働、世間相場を下回る賃金等々、様々な社会問題を引き起こし、事故の原因にもなっています。
ところで、皆様は「トラック」という言葉から先ず「重大事故を起こす」、「黒い煙を上げて暴走」、「後ろ横から煽る」等々、悪いイメ-ジが頭に浮かぶことと思います。こういったイメ-ジを皆様に植え付けたのは我々業界人の責任です。然し、皆様は日常生活の中で例え一日でも、トラックが消えたらどうなるか考えられたことはあるでしょうか。約80万人のプロ・ドライバ-の殆どは、日夜「家族の生活」と「安全」を守るため、まじめに運転に従事しています。トラックにより私たちの日常生活がどのように支えられているか、「陰」の部分だけでなく「光」の部分にも目を向けていただきたいのです。
(注記)トラック業界の実態はこの16年間にあまり変わっておらず、改革精神に欠けると言われても仕方がありません。
■平成19年9月(2007年)寄稿:「観光立国ついて」
最近各方面で「観光」という言葉が脚光を浴びております。「観光」、「ツ-リズム」を学部・学科名に付した大学も急増しています。日本の観光行政を司るのは国土交通省(旧運輸省)であることから、運輸業界に身を置く私も直接・間接的に関与しております。観光産業の特色は何と申しましても「平和な地域にのみ存在することの出来る平和産業」であり、「人と人、国と国との交流の絆」となり、そして「経済効果の奥行きが深く裾野が広い」、「地域密着型で町興し・村興しの起爆剤となる」産業であることです。
日本政府もこういった観光の重要性に着目し「ビジット・ジャパン」キャンペ-ンの推進や、近い将来「観光庁」の新設も視野に入れ、前向きに取り組んでおります。そしてこのほど策定された「観光立国推進基本計画」には、政府は2010年までに日本人の海外旅行者を2000万人(2006年は1753万人)、訪日外国人1000万人超(同733万人)を目標とし、将来的には出入国者数を同程度とすることが明記されました。
ところでダボス会議を主催する「世界経済フォ-ラム」による初の「旅行・観光競争力報告」においては、欧米先進国が上位を占める中、日本は調査対象124ケ国・地域中25位と振るいませんでした。衛生や教育水準等「基礎的な条件」は高位ですが、空港網の整備、価格競争力、入国ビザの必要度、政府の観光政策優先度への評価は低位です。真の「観光立国」を目指すには、官民一体となった観光の「国際競争力」強化が課題です。
(注記)コロナ禍の前の2019年のインバウンド数(訪日外国人数)は3188万人と2006年比約4.3倍に増加しました。その後コロナ禍の影響を受け、2020年~2022年は3年間で819万人、2021年は単年で25万人と大幅に落ち込みました。しかし、最近に至り入国規制が緩和され、このところ急増の様相を呈しています。一方、2019年における日本人の海外渡航者数(アウトバウンド)は2008万人と2006年比約15%の増加に止まっており、今後も漸増の傾向は変わらないと思われます。