瞬く間に3ヵ月が過ぎ、いよいよ明日から4月。桜の花も一斉に開花し、コロナ問題もほぼ収束したことも相俟って、明るさと賑わいが蘇り春爛漫といったところです。東海道新幹線に乗車しても外国人観光客(インバウンド)が目立ちほぼ満席状態。緊急事態宣言下の一車両に数名のころと様変わりです。そして駅も人また人でごった返しています。
既に卒業式は終わり、今は入学式、入社式のシーズンです。私も約60年前に社会に出て、初めて訪れる配属先の山口県に向かう際の一抹の不安と、「さあ、これから頑張るぞ」という気持が去来したことを、つい先日のように懐かしく思い出します。
■■最近想ったことについて記します:
■私が前職時代、入社式で新入社員に伝えたこと:
私はこれまで何度か新入社員に対して祝辞や激励の言葉を述べる機会がありました。新社会人に対して常に言ったのは、「君たちの目の前にあるのは、何も描かれていない真っ白なキャンバスだ。これにどんな絵を描くかは君たち次第だ。たとえ、うまくなくてもよい、味のある絵を描くように頑張ってもらいたい」でした。また、東証一部上場後は新入社員に訓示する際に、次の3つのリスクを指摘しました。
①日本は世界最大の自然災害多発国であること。その上で自分の身は自分で守ることを忘れず防災意識を常に持つこと。
②今や人生100年時代。しかし厳しい国家財政や、急速に進む少子・高齢化を考えると、国家がバラ色の老後を保証してくれるとは期待出来ない。従って長寿自体は喜ばしいことだがリスクでもある。そのため若いうちから人生100年を見据え人生設計を考えること。
③今や我が国でも上場企業は市場で売買※される時代。上場企業である限り買収されるリスクは常にある。従って「寄らば大樹」のような安易な気分は捨て、あらゆる状況変化に対しも生き抜く「人間力」を養うよう努力すること。「天は自ら扶けるものを扶ける」を肝に銘じておくこと。
※M&A(Merge&Acquisition、統合・買収)は、米国では私が勤務していた1980年ころから既に、事業転換の常套手段でした。最近は日本でもようやく「乗っ取り」というイメージが払しょくされ、企業戦略上の重要な手段として認められようになりました。
■続出する大企業不祥事:
日本には約275万社の法人あります。我が国での大企業の定義は、資本金額1億円以上、かつ従業員100人以上が大体の目安です。現在、大企業のうち上場企業は3800社程度です。従って株式を証券取引所に上場していない会社(非上場)が99%以上を占めていることになります。昨年4月4日、かつての東証1部、2部、ジャスダック、マザーズという株式市場区分が、「プライム」「スタンダード」「グロース」という3つの区分に再編されました。本年3月末現在で東証上場数は3801社で、内訳はプライムが1834社、スタンダードが1446社、グロースが521社となっています。
こういった実態から考え、東証に上場されている企業は、日本の産業界を代表し、その社格が公に認められる存在です。ところが他の規範となるべき大企業に不祥事が絶えないのは一体どういうことでしょうか。中にはトップぐるみのケースもあります。そういった企業のトップは大企業としての「社会的責任」をどう考えているのでしょうか。
ごく最近の事例だけでも、記録捏造(電力)、認証不正(フォークリフトメーカー)、ビル施工不良(大手ゼネコン)、エンジン不正問題(トラックメーカー)、頻発するヤミカルテル等々、枚挙にいとまがありません。
いずれも釈明は「効率を優先」、「認識が甘かった」、「現場の実態を把握できていなかった」、「不正は分かっていたが言い出せなかった」といったようなことです。
本来、人間は理性と正義感を持っている生き物だと思います。ところが組織になると、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という心理が働くというか、逆に自分だけ仲間外れにされたくない、つまり「会社のため」ではなく、組織内で生きるための保身なのです。その底流にあるのは、今問題になっている「闇バイト」と、次元は違っても本質的には変わらないのではないでしょうか。
ところが今や「内部告発」が当たり前の時代となっており、組織内で自浄機能を失うとガス爆発のように外に吹き出し、SNS等を通じて一挙に世に知れ渡ります。そして厳しい社会的制裁をうけ、信用は失墜、莫大な罰金や損失、株主代表訴訟等々、不正により得た利益とは桁違いの損失をこうむります。場合によっては地位も名誉も剥奪されます。CSR(企業の社会的責任)の重要性を十分認識する必要があります。
■2023年度予算と国家財政の問題:
3月28日、2023年度予算が成立しました。予算規模は114兆円と過去最高です。このところ毎年同じパターンです。一部の国会議員は何でもかんでも、「国債で賄え」と言っているようです。特に選挙に弱い議員は増税を避け、ポピュリズムに傾きがちです。今更いうまでもなく日本の財政状態は先進国では最悪です。このままでは不幸にして戦争に突入しても継戦能力に乏しく、南海トラフのような新たな大規模災害が発生すると国家財政は持ち応えられないのではないでしようか。しかも他国の支援をあてにするわけにはいきません。
昔から我が国では「入るを量って出るを制す」が国家財政管理のみならず家計の要諦でした。ところが1965年に初めて赤字国債が発行されて以来、2023年度末の発行残高見込みは1068兆円となり、GDPのほぼ2倍に達しています。発行済み国債のうち日銀の保有残高は、黒田総裁の就任時(2013年)の94兆円から2022年9月末には536兆円に膨れ上がっています。財政健全化には経済成長が不可欠であることは当然ですが、「これだけ借金(国債発行)を増やしながら、なぜゼロ成長が続いてきたのか」、つまり日本経済・社会の構造や行政のメカニズムのどこに問題があるのかという側面から、徹底的な検証を行い改革に結び付ける必要があるように思います。