先週金曜日(9月1日)は「防災の日」でした。昭和35年(1960年)に閣議決定されたことが始まりです。この日に指定されたのは関東大震災が発生した日であることと、暦の上では二百十日に当たり、台風シーズンを迎える時期でもあり、また昭和34年9月26日の「伊勢湾台風によって、戦後最大の被害(死者4,697人、行方不明401人)を被ったことが契機となり、地震や風水害等に対する心構え等を育成するため、「防災の日」が創設されたのです。
今年は約10.5万人の死者が出た関東大震災が発生して、丁度100年の節目の年です。テレビでも元はモノクロであった写真がカラーで再生放映され、被災者の声も交わり非常に臨場感がありました。当時は情報を正確に伝える手段がなく、流言飛語が飛び交い人々は右往左往し、火災により膨大な死傷者が生じました。
なお、私は東日本大震災発災直後、関西経済連合会に設置された震災復興対策特別委員会の副委員長として、被災地を幾度か訪れました。広範囲な津波の現場や福島第一原発等も訪れ、生々しい被災状況に接しました。また、多くの生徒の命が奪われた宮城県石巻市の大川小学校も訪れ、何が生死を分けたのか深く考えさせられました。
そして今、首都直下地震に加え、日本の象徴ともいえる美しい姿をみせている富士山の噴火のリスクが専門家で議論されています。1707年(宝永4年)の噴火は、マグニチュード8.6とされる国内最大級の宝永地震の49日後に、連動して発生した可能性が指摘されています。それ以降、静穏を保っている富士山が、30年以内の発生確率が70~80%とされる南海トラフ巨大地震と、連動して噴火する可能性が危惧されています。我が国は毎日のように日本のどこかで発生する地震に加え、111の活火山が存在する等、世界屈指の「災害多発国」であり、大災害と隣り合わせの日々であることを決して忘れてはなりません。
そして防災に関して大事なことは「喉元過ぎれば熱さ忘れる」ことがないよう、悲惨な災害体験を風化させないことです。その上で「自分の身は自分で守る」という心構えで、日ごろから最小限の備えをしておくことだと思います。9月1日には訓練の一環として携帯電話の警報音が突然鳴り響き、改めて防災意識の大切さを感じました。
なお、災害が起こると「マニュアルに従って行動したか」が問われます。ところが災害はマニュアル通りにはやってきません。もちろんマニュアルは基本的行動指針として大切ですが、「いつ、どこで、何時ころ、どれくらいの規模」等々、全く予測できません。交通は寸断され、連絡網も思うように機能しない可能性があり、指示命令系統も混乱します。場合によってはマニュアルに反する行動もせざるを得ないことも生じます。従って最終的には災害現場の当事者の咄嗟の判断が全てです。私は前職時代、現場関係者にはそれぞれの実態に合わせ、様々なケースをシミュレーションし、日ごろから判断力を磨いておくよう口うるさく言い続けました。
■■今週もいろいろなことがありました。気になったことを記します。
■福島第一原発の処理水の海洋放出開始:
福島第一原発の処理水の海洋放出が始まりました。「汚染水」と言い間違え物議を醸した大臣がいました。「病は口から入り、災いは口から出る」といわれますが、正に「口災」です。「災害は忘れたころにやってくる」と言われますが、先日の新聞の川柳欄に「人災は忘れぬころにやってくる」がありました。言い得て妙と思いました。人災のウラには「慢心」があることは間違いありません。
処理水放出については、前号で申し上げたように、中国は若者の高い失業率や貧富の格差拡大、不動産業界のバブル崩壊がもたらした不景気等の、国内の深刻な問題から国民の目を外へ向けさせる意図と、日本に対する外交カードとして使おうと考えたと思われます。また、習政権は日本を非難すれば国際社会で同調する国が相次ぐと判断したようですが、その思惑は外れました。そのため今後中国が国家のメンツを保ちながら、「挙げた拳」をどう下ろすか興味津々です。
■防衛費について:
防衛省は2024年度予算の概算要求として2023年度当初予算から13%増やし過去最大の7兆7385億円を申請しました。ところが最近公表された防衛白書によると日本の自衛隊は潜水艦が22隻、護衛艦が50隻、近代的戦闘機が324機といずれも中国軍を下回っています。因みに中国軍の潜水艦保有数は70隻、水上艦が90隻、戦闘機は約1500機とされています。台湾はそれぞれ4隻、30隻、321機。人員をみても中国軍は204万人、台湾の10倍超で格段の差があります。
なお、日本の自衛官数は23万人で、必要定員(約24.4万人)を下回っています。昨年度は少子化の影響とハラスメント問題に加え、ウクライナの現状から入隊をためらう傾向が見られ、最前線で活動する自衛官を予定の6割しか採用できなかったと報じられています。中国は愛国教育を強化し、そして最近同国が公表した新しい地図に見られるように、一段と覇権主義・帝国主義色を強めています。侵略戦争は軍事バランスが崩れると起こります。「備えあれば憂いなし」です。外交戦略の強化と同時に防衛力の強化は必須です。もちろん我が国単独では力不足です。ウクライナのケースを見ても、同国民が「侵略への勝利のため最後まで戦う」という姿勢をみせている限り、米国並びにNATO諸国は支援を続けるでしょう。
■賃上げ、物価高に追い付かず:
経団連が先日発表したところによると、2023年春闘の大手企業の賃上げ率は3.99%となり、31年ぶりの高水準となりました。また連合の集計によると、組合員300人未満の中小企業の賃上げ率も3.23%と高い水準で妥結しました。ところが厚労省によると6月の実質賃金は前年同月比で15ヵ月連続下回りました。米国では消費者物価を上回る賃上げが進み個人消費の増加に寄与し、高金利とインフレ懸念はあるものの好景気を維持しています。背景に労働組合の存在があります。外国人から「日本は人手不足といわれるのに、なぜ賃金が上がらないのか」と訊かれました。いろいろ理由がありますが、その一つに労働組合の御用組合化があるように思います。労使は企業戦略や賃金の在り方について、もう少し緊張感をもって議論をすべきと考えます。そういう点で先日の「そごう・西武」のストライキによる休業は、経営者に警鐘を鳴らす効果は多少あったように思います。