早いもので間もなく年明けから3ヵ月が過ぎ、4日後には4月です。最近の天候不順で桜の開花予想は二転三転していますが、東京ではいよいよ今日、明日には開花しそうです。昨年と比べ既に10日近く遅れ、平年の開花日(3月24日)より遅くなっています。予想(よそう)は逆読みの「うそよ」になりました。
さて、前号でも採り上げましたが、大相撲春場所(大阪)で新入幕の東前頭17枚目(幕内最下位)の尊富士が、13勝2敗という成績を残し初優勝を果たしました。初土俵から10場所と史上最速、そして新入幕優勝は1914年以来110年ぶりという快挙です。前日の朝乃山戦で右足じん帯を損傷し、私はテレビで観ていて千秋楽への出場は無理だろうと思いました。ところが兄弟子の横綱・照ノ富士の激励で「スイッチが入り」足の痛みが消えたとのこと。この言葉を私たちは素直に受け止めるべきでしょう。諺に「火事場のくそ力」がありますが、人は切迫した状況に置かれると普段は想像できない、「神通力」のような不思議な力が発揮されるのは真実のようです。
一方、政治の方は相変わらず迷走状態というか、糸の切れた凧のような状態に陥っています。報道各社が調査した3月の内閣支持率は軒並み20%台。逆に「内閣を支持しない」との回答は各社により50%~70%台前半。さりとて野党の支持率が上昇しているわけではなく、結果的に無党派層の増加となっています。国内外には我が国の将来を大きく左右する問題が山積しています。なんとか早く今の閉塞感を払拭してもらいたいものです。
■■最近想ったこと・注目したこと:
■米国の株式市場での主役に変動:
米国の株式市場は高金利が継続しているにも関わらず、ダウ平均は4万ドルをうかがう高値で推移しています。これまでの上昇を支えてきたのはマグニフィセント・セブン(素晴らしい7社)と称せられるハイテク株でした。マグニフィセント・セブンとはGAFAM(グーグル、アップル、メタ、アマゾン、マイクロソフト)と称される5社に、テスラ(EVメーカー)とエヌビディア(半導体メーカー)を加えた7社の総称です。ところがこのところいろいろな要因でテスラとアップルの株価に陰りが見られます。すると今度は肥満症薬を生産する米国製薬会社最大手のイーライ・リリーや、デンマークの製薬大手ノボ・ノルディスク社が頭角を現してきました。肥満症薬の世界市場規模は2030年までに昨年比16倍以上の約15兆円まで拡大するとされています。米国ではハイテク株が勢いを失うと、新たに肥満症薬を武器とする製薬会社が株式相場をけん引し、米国経済の強さを保つ原動力となっています。
■日本のGDP(国内総生産)について:
2023年の日本のGDPが、物価の影響を含めた名目ベースでドイツに抜かれ、世界4位に転落しました。数年後にはインドにも抜かれるとの予測がなされています。直近10年間の実質経済成長率はドイツの1.1%に対し、日本は0.6%。これにインフレ率の違いが加わり、GDPの伸びの違いとなって表れたのです。
一方、今から30年前の1994年を基準として自国通貨ベースで比較すると、日本のGDPは1.1倍。ドイツは2.2倍、米国は3.7倍となっており、やはりこの30年間における日本経済の停滞ぶりが顕著です。
次に一人当たりGDPをみますと、日本は1996年の世界で17位をピークに低下傾向にあり、昨年は36位まで順位を下げたようです(ドイツは21位)。日本生産性本部によると、日本の労働者が稼ぎ出す1時間あたりの付加価値(労働生産性)は52.3ドルで、OECD加盟国38ヵ国中30位にとどまります。
■本年度の賃上げ状況(春闘):
今春闘での賃上げ率は、連合の集計(3月15日現在)で平均5.25%、中小企業でも4.42%と1991年以来33年ぶりの高水準になっています。ところが厚労省が主要7ヵ国(G7)の1991年と2020年の名目賃金上昇率(物価上昇分込み)を比べたところ、米国は2.8倍、英国が2.7倍に対し、日本は1.1倍に止まりました。歴史的水準とされる今春闘の賃上げを以てしても、欧米主要国と比べると未だはるかに低い上昇率です。 因みに最低賃金も我が国では正社員の45%にとどまり、世界に見劣りします。それじゃ日本の企業に支払い能力がなかったのかというとそんなことはありません。企業が利益の中から人件費として払った「労働分配率」でみると、資本金10億円以上の大企業の2023年における同比率は40%を切っています。また日本企業(金融など除く)の手元資金は昨年末で約106兆円と過去最高水準にあります。大企業が率先して分配率を上げる、即ち賃上げを継続的に実施することが経済の好循環に繋がります。ただ、中小企業における労働分配率は70%に達しており、利益に対する人件費の比率が高く経営状態の厳しさを表しています。
なお、日本企業が労働者に費やす能力開発費のGDP比(2018年度「労働経済分析」)をみると、米国が2.08%、仏1.78%、独1.20%に対し日本は0.10%という低水準です。我が国は伝統的に「モノづくり国家」を掲げてきましたが自主開発製品は少なく、主に米国から技術を採り入れ日本流にアレンジした製品が多いのも事実。人への投資を怠ったことが主体性・創造力・開発力の違いをもたらした一因と言えます。
■日本経済にインフレの芽:
このほど国交省が発表した2024年公示地価によると、全国平均で前年比2.3%上昇し、伸び率はバブル期以来33年ぶりの高さとなりました。株価や賃金に引き続き土地にも価格上昇の波は拡がっています。また2月の消費者物価指数は2.8%上昇しました。今後、人手不足→人材確保のための人件費引き上げや、原材料、金利の上昇は避けられません。従って事業の維持・継続にはコスト高騰分を価格転嫁できるかどうかに懸ってきます。例えば賃上げには価格転嫁による原資の確保が必要です。公取委によると我が国産業界の転嫁率は全業種平均で45.7%です。ところが中小・零細が多く多層構造の業界ほど転嫁率は低いのが実態で、最下位はトラック貨物運送の24.2%です。これでは賃上げに必要な原資は賄えません。現在の価格上昇は多くの場合、需要の強さによるデマンド・プル・インフレではなく、需給が緩い状況下でのコスト・プッシュ・インフレですから、値上げ交渉は厳しいことが予想されます。政府は補助金の給付といった一時的な救済策の繰り返しではなく、もっと真剣に我が国産業界の構造改革に取り組むべきです。