気象庁は9月2日、今年の夏(6~8月)の全国平均気温は平年と比べ、1.76℃高く、これまで最高だった昨年と並び、統計のある1898年以降で最も暑かったと発表しました。9月に入っても猛暑は続いており、熱中症への警戒が引き続き必要としています。背景として長期的な地球温暖化に加え、偏西風の蛇行により西日本を中心に高気圧に覆われ、快晴の日が続いたことが挙げられています。特に7~8月は全国の9地点で40度以上の最高気温を記録しました。そして7月の平均気温は平年より2.16℃高く、記録づくめだった昨年(同プラス1.91度)を上回りました。体感的にもそれを実感する暑い日々でした。なお、総務省消防庁の発表では、熱中症による全国の搬送人数は2014年(6月以降)の40,048人に対し、今年は8月25日までで既に83,238人に達したそうです。まだまだ警戒を緩めるわけにはいかないようです。
また、地球温暖化により台風の勢力が高まり「凶暴化」が進むと予測されています。特にその関係が深いと指摘される日本付近の北西太平洋の海面水温が、1980年代まで8月の平均は28度程度で安定していたのが、現在は30度以上を観測しているそうです。
一方、東南アジア諸国でも悪天候が続き、フィリピン、タイ、ベトナム、中国南部で台風による洪水で人的・物的そして経済面で大きな被害が出ています。
■■最近想ったこと・注目したこと:
■米大統領選挙、候補者初の直接テレビ討論会の結果と今後について:
9月10日(現地時間)、午後9時から約100分、東部ペンシルベニア州フィラデルフィアで民主党ハリス副大統領と共和党トランプ元大統領の間で、初の直接対決によるテレビ討論会が行われました。経済、内政、外交、移民や中絶問題を始め広範囲に及ぶ論戦でしたが、事後の世論調査では押しなべてハリス副大統領に軍配を上げています。11月5日の投票日まであと55日、「もう一度討論会を」の声に対し、トランプ氏は少し尻込みしているようです。しかし、まだ選挙の行方は混沌としています。流れはハリス副大統領に向いていますが、2016年の大統領選挙でも事前は民主党ヒラリー・クリントン夫人が勝つという予想が支配的でした。現に全米の得票数ではクリントン夫人がトランプ氏を約260万票上回りました。しかし米国は直接選挙(総得票数)ではなく、各州に割り当てられた選挙人(総数538人)の過半数(270人)を獲得した方が大統領の座を射止めます。そして48州とワシントンDCでは「勝者総取り」方式を取っていることがトランプ氏の勝利に繋がりました。今回の選挙もカギを握るのが、選挙の度に民主党、共和党のいずれかに振れる7州(スイング・ステート)、即ちアリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、Nカロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシンでの勝敗です。従って両候補ともこれらの州での選挙人獲得を必死に目指しています。
因みに、目下、日鉄が買収を目指しているUSスチール社の本社は、スイング・ステートの一つであるペンシルベニア州ピッツバーグにあります。そして同州の選挙人の数は19人と多く、僅差が予想される選挙戦の行方を大きく左右します。しかも全米で85万人の組合員を抱え、買収に強硬に反対しているUSW(全米鉄鋼労働組合)の本部が同市にあります。そのため買収案件は純民間ベースであるにも関わらず政治問題化し、両候補とも労働組合側の主張を無視できず「買収反対」の立場を取らざるを得ないようです。今後の動向が気になるところです。
■相次ぐ大企業の不祥事、最近の事例について:
①JR九州の子会社「JR九州高速船」に続いてJR貨物で不正:
JR九州高速船は日韓両国を結ぶ高速船の運航で船への浸水を隠ぺいし、しかも社長の指示と了承のもとに行われ、記録の改ざん・警報センサーを改変という信じられないような事件が発覚しました。そして国交省の指摘も事実上無視していたようです。
これに続き今度はJR貨物で、車輪と車軸からなる「輪軸」の組み立て作業で検査データを改ざんしていたことが明らかになりました。「安全第一」という看板を掲げながら、実態はガバナンスが全く効いていなかったと言わざるを得ません。これでは国内輸送の柱として、トラック輸送から鉄道へのモーダルシフトに水を差すことになります。
②小林製薬の紅麹中毒事件:
紅麹原料を含むサプリメントを摂取した消費者が深刻な健康被害を訴えた事件で、最初の症例把握から公表まで2ヵ月を要した失態は、「人の命や健康をないがしろにする会社」という負のイメージを植え付け、大きな社会的制裁を受けています。そして同族企業の同質性や有事の不作為が問題にされています。なお、同社の社外取締役の中に、我が国におけるコーポレート・ガバナンス・コードについて語る代表的な人物が名を連ねています。「理論と実践の違い」や「社外取締役の役割」について改めてお尋ねしたいものです。また世間では複数の企業の社外取締役を掛け持ちしている方もいますが、自らの経験からすると最大2社が限界です。企業側も選任に際して「名前が通っている企業・人物だから」ではなく、出来るだけ正確なジョブ・マトリックス(職業経験・人物評価)に基づき、「実質的な資質・役割」を基準にすべきです。
③福島第一原発2号機のデブリ(溶け落ちた核燃料)の試験的取り出し延期:
当初の計画では8月22日に着手する予定だったのが延期になった原因は、燃料デブリを取り出す装置を原子炉格納容器に押し込む5本のパイプに、ケーブルを通す順位が間違っていたとのことです。そして私はこの間違いを発見したのが東電の社員でなく、協力会社(下請け)の社員であったことが問題の本質だと考えます。
私は2013年12月、福島第一原発の現場を訪れました。同発電所にある6基の原子炉のうち1~4号機は、海抜10mに設置されていて津波の直撃を受けました(5、6号機は13m)。その上、炉心冷却水用発電機の設置場所が同じ高さであったため浸水し、その電源を喪失したことにより冷却不能となりました。ところが、事故対策マニュアルは当然あったと思いますが、現場のことは協力会社任せであったようで、緊急対応(発電機の作動等)に手間取ったと聞きました。他の業種の大規模工場も同様ですが、発注元企業の社員は現場を下請けに丸投げでなく、肝心なところはしっかり精通しておくべきです。また「5mを超える津波は考えられない」、「電源が切れるような事態はありえない」ではなく、「想定外を想定する」くらいの前提を基にリスク管理をすべきです。原子力の活用は我が国の存立にとって不可欠ですが、その一方で我が国には被爆国としての根強いトラウマが存在します。従って慎重の上にも慎重が必要です。
因みに、2000年6~7月に発生した雪印集団食中毒事件では、記者会見で現場の細かなことを質問された社長が答えに窮し、「私は寝てないんですよ」と失言したことが猛烈な批判を浴び、その後の引責辞任に繋がりました。
◎その他にも様々な不祥事やコンプライアンス違反を犯した大企業が多数存在します。ところが中にはトップがその後も公職に居座る事例が見られます。自社・自組織のガバナンスも十分果たせないトップが、ブランド力により当然のごとく公的な立場に居続け、危機管理等の問題について語るのはいかがなものでしょうか。
■自民党総裁選:
9月12日(木)に告示され、女性候補2人を含む過去最多の9人が立候補しました。安倍・元総理が亡くなり、統一教会問題や政治資金の裏金問題でほとんどの派閥は解散し、元安倍派幹部が舞台から姿を消したことから乱立気味です。9月27日(金)の決選投票でどうなるか。習近平や米国大統領といった人物と渡り合える「人間力」を具えているのか。「日本の常識は世界の非常識」といったところを改革するとともに、きっちりとした世界観をもった外交が出来るのか。論戦にしっかり耳を傾けたいと考えます。しかし我が国における与野党の代表選挙より、米国大統領選挙の行方が気になると同時に、米国民の熱狂ぶりをうらやましくさえ感じます。