早いもので11月も下旬に入りました。街のあちこちで美しいイルミネーションが夜空にきらめき、どこからかクリスマスソングも聞こえてきます。それとともに懐かしく思い出すのが40年以上前、ニューヨークで勤務していた当時、マンハッタンの中心にあるロックフェラーセンターに設置された、巨大なクリスマスツリー(高さ21~30mのオウシュウトウヒ)です。点灯式は毎年大々的な式典として行われ、今年は12月4日です。この伝統のセレモニーは1933年(ロックフェラー・プラザの開業年)に始まりました。また、この時期になりますとマンハッタンでは厳しい寒さ(最低気温マイナス15度)の到来とともに、街のあちこちで見られるマンホールから噴き出す白い蒸気が冬の風物詩です。
■■最近想ったこと・注目したこと:
■日本経済はデフレかインフレか:
先日の衆議院議員選挙では各党が様々な経済政策を打ち出しました。例えば石破首相は「最優先すべきはデフレからの完全脱却だ」と主張しました。その一方で「物価高を克服するための経済対策」をやると訴えました。「デフレ」の本来の意味は「インフレ」の逆で「物価が下がる」ことです。ところが物価は上昇しています。現実として9月の消費者物価は前年同月比2.4%増と4ヵ月連続上昇し、そして10月の企業物価(卸売物価)は前年同月比3.4%上昇しており、いずれ消費者物価に反映されることになります。以上を勘案すると首相はデフレという言葉を「不景気・不況」という意味で使っています。つまり与野党を問わず要求の強い補正予算(景気対策)を正当化するためのように思われます。
ところで我が国では2023年の実質賃金は前年から2.3%も減りました。この最大の理由は賃金は上がったが、それ以上に消費者物価(総合)が3.8%も上昇したからです。これをこの度の選挙で国民民主党は、「賃金デフレ」と呼び、「手取りを増やす」をキヤッチフレーズにして若者の心をとらえ議席を大幅に増やしました(11→28議席)。そして同党は「年収の壁」を103万円→178万円へと引き上げることと、「トリガー条項の凍結解除」(暫定税率の廃止)を掲げています。「年収の壁」は典型的な制度疲労の実例であり、労働力の確保のためある程度の水準への引き上げが不可避と考えます。一方、凍結解除はガソリン税(国税・地方税)の変動により、企業や消費者の買い控えや駆け込み需要を引き起こし、マーケットの混乱が予想され、メリットよりデメリットの方が大きいと考えます。
なお、現在の物価上昇の問題点として、その要因が個人消費や製造業の生産増を柱とする「需要が強さ(Demand-Pull)」に起因するのではなく、円安による原料高とか人手不足による人件費の高騰といった「コストアップ(Cost-Push)」に基づくことです。こういった状況下、10月にはコストを転嫁できない企業の倒産が11年ぶりに900件台(うち中小零細企業が8割弱)に達しました。しかし今後の人材確保やDX・AIの導入のためには業界の再編・淘汰は避けて通れないでしょう。さもなければゾンビ企業が温存され、主要先進国で最下位の労働生産性の向上は無理です。政府は「一時的な対症療法」でなく、「産業構造の改革・改善(外科手術)」にもっと資金を向けるべきではないでしょうか。
現在の日本経済は潜在成長力が1%を切る閉塞状態ですが、その根底にあるのは、①将来への不安(健康、年金・介護等社会保障)、②少子・高齢化・人口減少による国内市場の縮小、③ハイテク・デジタル分野の遅れ、④時代の変化にマッチする人材の不足等々、構造的な要因によるところが大きく、小手先の対策(ばら撒き)の繰り返しでは財政を更に悪化させるだけになりかねません。
そして、どのような政策を進めるにせよ財源問題を避けて通れません、その場合、①経済成長による増収、②歳出改革、③増税等が考えられます。①が理想ですが簡単ではありません。②、③もかなりの痛みを伴います。首相は時には国民に「苦いクスリ」を飲ませる「覚悟」と「胆力」が求められますが、先の選挙で惨敗した今の政権基盤では容易ではありません。
■10年ぶりに韓国(ソウル)を訪問:
先週、40年来の韓国の友人に会うため2泊3日の日程でソウルを訪れました。関空とソウルの飛行時間は僅か1時間40分程度。しかし未だ「近くて遠い国」といった印象があります。今回の訪問はコロナ禍の影響もあり約10年ぶりでした。この友人は20年以上前からブータン王国在韓国名誉総領事を務めており、その引き合わせで私は3年前まで在大阪ブータン王国名誉領事を11年間務めました。縁とは不思議なものです。そして友人は孫息子がこの度、兵役義務(18歳から2年間)を終え帰ってきたことを殊の外喜んでいました。この辺りは我が国との国情の違いを痛感させられます。なお、日韓関係は大統領と野党の対立で危うさを感じますが、ここではこれ以上は触れません。
ソウル滞在中は好天に恵まれ、市内から車で約1時間の韓国民俗村に案内してもらいましたが、真っ赤と黄色が映える紅葉は素晴らしいものでした。そして韓国伝統の料理(日本で言う懐石料理)もおいしかったですが、それ以上に、是非とも食べたかった参鶏湯(サンゲタン)と韓国風焼肉(プルコギ)の味は忘れられません。なお、ソウルの交通事情は渋滞がすさまじく、危うく帰国便に乗り遅れるところでした。
■日韓共通の問題:少子・高齢化、労働力不足→外国人労働者の確保の必要性
韓国も我が国同様低経済成長に喘いでいます。因みに昨年の成長率は前年比1.4%(日本は1.9%)。直近の7~9月期は前期比+0.1%でした。特に輸出が不振です。
そして同国は我が国以上に少子化が進んでおり、2023年の合計特殊出生率は(一人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数)は0.72まで下がり(日本は1.20)、世界的にも異例の「超少子化」に直面しています。同時に65歳以上が全人口に占める比率である高齢化(現在19.2%、日本は29.3%)は我が国を上回るペースで進んでおり、2026年までに「超高齢社会」(21%超)、そして2040年には34%と日本と肩を並べ、その後は上回るとされています。
以上のことから同国は労働力不足を補うため外国人労働者の受け入れを急拡大しています。そして雇用許可の業種を増やし、上限枠を3年間に3倍拡大しました。具体的には2021年に6万人程度だった年間上限枠を2023年に12万人、そして2024年には16.6万人まで拡大し、新たに飲食業や宿泊業、養殖業への就労を許可しました。因みに日本における外国人労働者数は2023年には205万人でしたが、2030年には342万人、2040年に591万人が必要とされ、推計ではそれぞれ77万人、97万人が不足するとしています。なお、韓国は日本、台湾と競合する外国人労働者の確保のため、両国を上回る賃金(27.1万円、2022年製造業)を支給しています。これは同年の日本の技能実習生の平均21.2万円、台湾の14.3万円を大きく上回っています。今後とも3カ国間の外国人労働者の争奪戦が激しくなると思われます。