明けましておめでとうございます。昨年末から1月5日(日)まで5年ぶりの9連休という長い休暇でしたが、皆様はどう過ごされたでしょうか。連休が始まる前は「あれも、これも」と思い浮かべていましたが、いつものことながら終わってみればやり残したことばかりが目につき、ハイスピードで過ぎ去る人生の縮図を感じました。
なお、私の休暇の締めくくりは5日(日)の広島県大竹市・下瀬美術館、並びに宮島への日帰りツアーでした。私は宮島には以前訪れたことがあるのですが、家族の希望で気軽に参加しました。ところが早朝、自宅を出てから夜、帰宅するまで約12時間、歩行数約1万1千歩、そして新幹線・在来線・車・フェリーを乗り継ぐ強行軍でした。時節柄どこも人出でごった返し、特に外国人観光客が目立ち国際化という時代の変化を感じた一日でした。
■■最近想ったこと・注目したこと:
■今年への願い:
昨年は国内では元旦の能登半島地震で始り、「金」にまみれた年でした。そして世界的に選挙イヤーでしたが、ほとんどの国で政権与党が負けた波乱の年となりました。
そこで私は今年こそ穏やかな一年であってほしいという願いを込め、今年の一文字に「穏」(おだやか)を選びました。しかしその願いとは裏腹に今年も先が見通せない一年となりそうです。特に最近は「何が正義か」、「民主主義とは何か」を考えさせられることが少なくありません。そして勝った方が「正義」を唱え、「民主主義の勝利」を主張します。これでは古来から風刺に使われる「勝てば官軍、負ければ賊軍」と何ら変わりません。そして「歴史は繰り返す」人類の愚かな現実も随所で見られます。その一方で人間の頭脳に代わるAIが急速に進化し、このままでは人類は一体どこへ向かおうとしているのか全く分からない、混沌とした時代に入ったと言わざるを得ません。本年が「不穏」ではなく「平穏」な年であることを心より願っています。
■人生100年時代を生きる皆さんへ:
私は1942年(昭和17年)10月、太平洋戦争のさなかに中国・上海市の日本人租界で生まれました。1歳の誕生日の直前に実母が現地で病死。日本に帰国後は教育熱心な継母に厳しく育てられました。その後はもっぱら兵庫県尼崎市に居住し、高等学校を卒業後は親元を離れたく、大学時代は東京で過ごしました。社会に出てから1年以上過した所として山口県宇部市、大阪市、静岡県富士宮市、東京都内、千葉県千葉市、米国ニューヨーク市(5年半)があります。そして帰国後、40歳の時に関西に戻りました。今年で83歳になりますが、今の心境は「人生到る所に青山あり」、「どんな経験も人生にとってムダにならない」(何事にも全力投球せよ)。そして日本人・外国人を問わず「人との縁・出逢い」を大切に人生を歩んできました。「座右の銘」は月並みですが「日々努力」です。
なお、今日のような世界で生きる若い人たちにアドバイスがあるとすれば、「自己啓発」で心身を鍛え、日本に止まらず世界に目を向け、「自分の生きる道・居場所」を追求することです。また、中堅サラーマンには名刺・肩書がなくなった後の、自分の商品価値を高める努力をしておくことです。「何となく定年を迎え、組織を離れた後は何も残らない」では、「人生100年時代」を有意義に過ごせないのではないでしょうか。
■日本製鉄(略して日鉄)によるUSスチール社買収(M&A)について:
私は前職時代、日常業務で鉄鋼業界に深く関わっていましたので、本件に強い関心を持っています。
USスチールはモルガンとカーネギーという米国の金融2財閥が、それぞれ保有していた製鉄会社を1901年2月に統合し、ペンシルベニア州ピッツバーグに設立した企業です(124年の歴史)。私は米国在任中、同市に同じく本社を置く1883年創業のPPG Industries Inc.という化学会社を何度か訪れました。その際、同市を流れる川向うに何基か立っているUSスチールの高炉を見掛けました。当時は日本国内でも「鉄は国家なり」といわれましたが、今も鉄鋼は「産業のコメ」と称されるように、多岐にわたる製品の基礎資材として不可欠な基幹産業です。同社はかつて世界最大の生産量を誇る製鉄会社(1953年のピーク時は3500万トン超)でしたが、2019年の粗鋼生産能力は1940万トン(高炉数計12基)で、世界27位です(同年の日鉄は5170万トンで同3位)。なお、2023年における米国の粗鋼生産量は約8000万トンとされ、高炉法が30%強、電炉法が70%弱を占めおり、日本(75%弱:25%強)とほぼ真逆です。その理由は、米国は我が国よりはるかに巨大な自動車市場を擁しており、そこから発生するスクラップを鉄源として使用すること、並びに日本の約25倍という広大な国土を考えると、消費地近くに電炉を設置する方が輸送コスト面で優位と聞きました。現在、米国製鉄最大手はニューコア社(電炉メーカー、2019年の粗鋼生産量は約2300万トン)で、連続48年増配を続ける卓越した経営戦略が注目されています。
こういった状況を背景とした日鉄によるUSスチールの買収ですが、①この案件が俎上に上がった時期が大統領選挙戦のさなかで、スイング・ステート(選挙ごとに民主党と共和党に振れる7州)の一つされるペンシルベニア州に本部を置く、鉄鋼労働組合(USW、組合員数85万人)の票の争奪戦となり、純民間案件から政治問題化したこと、②対立候補のトランプ氏が真っ先にM&Aに反対の「のろし」を上げたことにより、バイデン氏も追随せざるを得なかったこと、そして③「承認」したとしても、トランプ氏が大統領就任後公約通り不承認とすれば面目を失うこと、④「不承認」として、逆にトランプ氏が豹変し承認に転ずればUSWを裏切ることになり、2年後行われる中間選挙(連邦議員選挙)で民主党に有利になる、等が考えられます。一方、産業政策上の問題は特に見当たらないことから、やはり背景に政治的意図が感じられます。一部には「名門企業を外資に売るな」という声もあるようですが、かつて栄光の座にあった同社を現在の窮状に陥らせた、経営陣の責任は一体どう問われるのでしょうか。
なお、今回の不承認に対し日鉄は、大統領の決定と対米外国投資委員会(CFIUS)の手続きに対する行政訴訟と、USWと関係者を相手とする民事訴訟に踏み切りました。今後は「国家の安全保障」という言わば「聖域」を巡って法廷で争われます。米国ではずっと以前から訴訟文化が根付いており、判断を裁判所に委ねることはごく普通のことです。因みに米国の弁護士数は約133万人(2021年)と日本の約30倍に達しています(人口は約3倍)。
何れにせよ、米国が経済成長を持続するには適度な「移民受け入れ」と「外資の導入」が必要です。従って、今回の問題が他の分野に影響を及ぼす可能性は低いように思います。一方、外国からの投資(対内直接投資)が他国と比較し低水準な我が国ですが、今後、主要企業が外資によるM&Aの対象になった場合に、「経済安全保障」の在り方が問われることになります。